サーモグラフィの原理・理論・計測

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サーモグラフィの原理・理論・計測

  • サーモグラフィとは

サーモグラフィとは物体表面の温度を画像化する装置のことを意味します。ほとんど多くの場合、非接触式と呼ばれる測定対象物に触れることなく温度測定を行えるカメラを指します。また、 測定対象物に貼り付けてその温度分布を色むらとして見る装置をサーモグラフィと呼ぶこともあります。しかし、一般的には、サーモグラフィは測定対象物からの赤外線放射を画像化し温度換算して表示するカメラの意で使われ、サーモビジョン、サーモビューワということもあります。
また温度測定目的ではなく、夜間視認目的のものはナイトビジョン、防衛用でサーマル、TWS、(広義の)暗視装置などと称しています。
ただし、必ずこういう表現をしなければならない、と決まっているわけではありません。

 

  • 赤外線とは

あらゆるものが電磁波を放射しています。
電磁波とは分子の振動による電場と磁場が交互に生み出す波であり、可視光線も紫外線も赤外線も電磁波です。それぞれの違いはその波長です。
赤外線は200年前にW. Hershellがプリズムでの実験で発見したとされています。分光された光の赤色の外側に熱発生が認められ、時を経てその見えない光は赤外線と名付けられました。
上述の通り、電磁波の種類の違いは波長によって分けられます。 人間が視認できるのはおおよそ0.4~0.75umの間の波長で、0.75umより長く1mm以下を赤外線としています。 近年は新しい研究分野として30um(あるいは100um)以上をテラヘルツとすることが多くなりました。1mm以上を電波として扱っています。(電波法では3テラHz=100um以上が電波の定義)
サーモグラフィは赤外線、特に中赤外線(3~5um)あるいは遠赤外線(8~14um)のいずれかを利用しています。

>>電磁波とは
>>赤外線とは

  • サーモグラフィの測定原理

あらゆるものが赤外線を放射しています。その放射強度はその温度と放射率、波長に依存します。 サーモグラフィはその放射輝度を測定することで、温度換算しています。
温度換算は黒体と呼ばれる理想的な赤外線放射体を模擬した黒体炉との比較により行われます。黒体と呼ばれる理想的な赤外線放射体であれば、ステファン・ボルツマンの法則を使うことで放射量と温度の関係が分かります。
しかし実際には大気による赤外光の減衰、レンズ・窓などの光学系による損失、センサ感度特性などにより計算通りには測定できないため、 黒体炉という黒体を模擬した赤外放射熱源との比較で温度測定を行います。この比較を「較正」や「キャリブレーション」などと言います。

  • メリット・デメリット

サーモグラフィのメリットは、たとえば熱電対と比べると
・数万~数十万点の温度を一度に測定できる。
・触れることなく測定できる。
・温度を画像で表示、記録することができる。

デメリットは、
・測定基準が黒体(炉)であるため、測定対象の表面状態(放射率)に影響されやすい。
・周囲環境条件の影響を受けやすい(温度ドリフト、反射の影響、湿度による減衰、など。特に非冷却カメラにて)
・比較的高価
などが挙げられます。

>>電磁波とは
>>再現性とは

  • よく使われる用途

サーモグラフィの用途は多岐に渡ります。
歴史的に軍事目的(ウェポンサイト、FLIR、サベイランスなど)が主たる用途で温度測定よりも視認用でしたが、近年の価格低下、小型化により
・電気設備(配電盤、送電線)点検
・建築診断(断熱欠損、コンクリート浮き検知、漏水診断など)
・太陽電池パネルの不良パネル確認
・金属溶融温度など工業用プロセス温度管理
・電子基板温度分布撮影
・人体温度測定
などに使われています。
また、高感度高速タイプのものは
・ロックイン測定による太陽電池のシャント検知
・高速回転中の回転体(タイヤ・ベアリング・モーターなど)温度測定
・荷重試験による応力解析
などに使われており、
特殊なものでは
・二波長(デュアルバンド、デュアルカラー)カメラによる物体の識別
などにも使われています。

>>画像・事例集

  • サーモグラフィ測定上の注意点

赤外線はその温度と放射率、波長に応じて放射されます。
波長はサーモグラフィの光学系、センサ波長感度で規定されるので較正されたサーモグラフィであれば考慮する必要はありません。 測定上重要なのは測定対象の放射率を知ることです。同じ温度でも放射率が違えば放射される赤外線の量は違います。
またあらゆる物質は入射してくる電磁波(赤外線)に対し吸収、反射、透過のいずれかの作用をします。どのように作用するかは物質の特性によります。 温度平衡にあれば、吸収された赤外線は放射されますから、放射率に応じた放射がなされます。
問題は反射あるいは透過で、これらは測定対象の温度とは無関係です。 サーモグラフィは温度測定に関係する放射と無関係の反射あるいは透過赤外線を見分けることはできないので、すべて含んだ赤外線を測定することになり、これが誤差要因になります。
反射あるいは透過は周囲からの赤外線であり、反射率(あるいは透過率)は1-放射率で求まりますので、周囲の温度と測定対象の放射率が分かれば計算は可能です。
その他、湿度、距離、NUC、カメラ周囲温度など様々な要因が測定に影響します。

>>放射率とは
>>反射・透過・吸収・放射

  • その技術

サーモグラフィは赤外線に感度を持つセンサを搭載したデジタルカメラです。
赤外線の検知方法は主に二種類に分けられます。量子型と熱型です。
量子型とは赤外線を光子としてとらえる方式で一般的な可視のデジカメと似ています。 検知素子に化合物半導体を使用しており、InSbやMCT、QWIPなど波長特性のあるセンサを使います。 また熱励起により室温では使用できないため、通常-196℃に冷却します。そのため冷却型とも言います。
特徴としては短時間の露光、高いフレームレート、高感度を得ることができ、波長も近赤外から遠赤外まで選択できます。 2波長などのマルチバンドセンサも存在します。 またクーラーで極低温に安定させているため、熱型に比べ大変安定しています。しかしクーラー搭載ゆえに大型で重く、クーラーのメンテナンスが必要で、熱型に比べ高価です。
熱型とは赤外線を熱線としてとらえる方式で、検知素子が赤外線を受光した際の温度上昇(あるいは低下)を電気的な変化に変えて信号としています。 温度変化を起電力に変えるSOIやサーモパイル型や極性変化を見る焦電型もありますが、温度変化を抵抗値変化としてみるボロメータ型が主流です。 酸化バナジウムとアモルファスシリコンの2種があります。変化をとらえるので室温動作し、クーラーを使用しないですむため非冷却型とも言います(動作安定のためにペルチエ素子を使っています)。
特徴としてはクーラー不要であるためメンテナンスが不要。小型で冷却型に比べ安価です。解像度も冷却型に追いつきつつあります。また広い範囲に感度波長をとれます。 デメリットは冷却型に比べ感度が低く、応答速度は熱型であるため遅く、3桁以上落ちます。
レンズは赤外域を透過する材料を使用し、Ge、Si、ZnS、ZnSe、カルコゲナイドガラスなどが使われますが最も多く使われるのはGe(ゲルマニウム)です。 ガラス(SiO2)は3um程で透過率が落ちていくのでサーモグラフィで通常使用する波長域では使用できません。

>>赤外線材料・材質

  • 独特の性能表示

・NETD ・・・Noise Equivalent Temperature Differenceの略で雑音等価温度差です。 最小温度分解能、温度分解能、感度などメーカーによって表記が違います。 その検知素子がどれだけ細かい温度差を見分けることができるかを表し、評価は2点温度を測定し信号と雑音の比で割った値を雑音に等しい温度としています。

・測定精度 ・・・サーモグラフィの測定精度は黒体炉の表示温度に対する精度になります。そのため較正条件が重要になります。

  • サーモグラフィの特徴
サーモグラフィは画像で温度が計測できる点が他の計測機と大きく異なる点ですが、 これは2つの側面から考える必要があります。
  • 熱分布の取得
サーモグラフィは熱の分布を画像として取得するという点で非常に優れており、 この場合、性能面では温度分解能、均一性、周辺減光、ドリフトが影響しますが、 最も重要なのは温度分解能です。 熱分布取得目的では画面内の高温あるいは低温部の検知、認識が重要となるため、目的の温度差を見分けられるかどうかが、鍵となります。
  • 温度計測
別の側面は画像で温度計測を行うという点です。 サーモグラフィの温度測定は事前にある環境条件において黒体炉から読み取れた輝度情報との比較で行います。 その事前に記憶させた輝度情報をキャリブレーション(較正)と言い、黒体炉の温度値とサーモグラフィの計測値のずれを温度精度と言います。 環境条件が較正条件と変わらなければ、(放射率が同じ被写体なら)基本的に同じ値が読み取れるということになります。
  • 測定条件、精度、再現性
しかしサーモグラフィの計測において同じ条件での計測は難しく、様々な要因で測定値が変動します。 つまり50℃の黒体炉を較正条件下では51℃と表示している場合、測定精度は1℃ですが、環境条件が変わった時に50.5℃を示している、ということがあるということになります。 この変動が測定再現性になります。異なる時間に撮影する場合や、撮影環境条件が異なる場合に測定再現性が鍵になります。 上記の場合が最大変動であれば、測定再現性は0.5℃ということになります。つまり2つのデータの誤差は0.5℃あるということになります。
  • カメラグレード、補正
これは測定精度や温度分解能とは別の要素で、前後の比較を行う場合などに注意を払う必要があります。一般にカメラのグレードが高いと測定再現性は高い(誤差が小さい)傾向があります。 熱対策、高いNUC精度、高い温度分解能が実現されているためです。 ローエンドや小型タイプの場合、あるいはより高い再現性を求める場合には、撮影上の工夫とソフトウェア上の補正が必要になります。
  • 温度計測と温度分解能
高温部の検知など分布として検知することと、温度計測として値の差を見るのでは、求める温度分解能も異なります。 温度分解能はカメラ信号S/N比であり温度差としての限界値となりますので、計測したいギリギリの値ではなく、 温度計測において見たい温度差に対し十分に小さな温度分解能を求める必要があります。 積算などを行う前の1フレームの温度分解能で比較して、十分かどうかを用途ごとに判断します。
  • 放射率とは
サーモグラフィにおける放射率とは、黒体を基準としたある波長における全放射エネルギーで同一波長の測定対象物が放射するエネルギーを割った比率を指します。 大雑把に言えば「それぞれの物質の赤外線の放射効率」ということになります。 放射率をより理解するためには以下続く前提を理解する必要があります。
  • 黒体と黒体放射とは
 放射率とは何かを理解する上で重要な概念が黒体です。 黒体とは全ての入射する電磁波を吸収する理想体で、入射電磁波の反射や透過はありません。全ての波長で最も効率よく電磁波を放射します。最も強い放射の波長は、黒体の温度で決まります。 黒体の放射強度は以下のプランクの式により求まり、下のグラフのようになります。
  • 物質が黒体放射するならば・・・
 測定する物質が図のような黒体であり黒体放射するならば、サーモグラフィから見た赤外線は物質の温度に応じた赤外線放射のみとなります (ここでは大気の揺らぎ、サーモグラフィ筐体・光学系の揺らぎは除きます)。 この場合、温度換算は非常に単純なものになり、測定精度は高いものになりますが、物質は黒体ではなく、ある割合でしか放射しません。 その割合を放射率と言います。
  • 放射率
 図の緑色のスペクトルが黒体放射、青いスペクトルが起こりうる放射例です。 このように黒体放射と現実に起る放射は同じではなく、同じ温度でも各波長ごとに放射量が異なります。放射率はある波長(域)での黒体放射の積分値と実際の放射の積分値を除算します。
  • 赤外線入射時の物質の振る舞い
黒体に赤外線が入射すると最終的に全て分子振動に変わり吸収されます。 しかし黒体でない物質に赤外線が入射すると、吸収以外にその電磁場の影響から反射と透過が生じます。 反射と透過は最終的に物質の温度に影響を残さず物質から放出されるため、サーモグラフィでの計測では邪魔な存在です。
  • 吸収と放射:キルヒホッフの法則
 ここで物質が温度平衡状態にあるとすれば、吸収された赤外線は最終的に全て放出されます。 これが放射であり、この関係をキルヒホッフの法則と言います。
  • 反射、透過、放射
 物質に赤外線が入射すると、物質からはある確率で反射、透過、放射のいずれかが起きます。 その確率は物質ごとの要因により決まり、その合計は100%になります。
  • 測定したいのは放射のみ
 前述のように、反射と透過はサーモグラフィでの計測には不必要ですが、サーモグラフィから見るとその区別なく入射してきます。 サーモグラフィはその入射光が物質の温度に応じた放射なのか反射・透過なのかを見分けることは出来ません。よって放射・透過・反射全て入った入射光の積分値を、計算で振り分ける必要があります。 全放射量から反射・透過を差し引いたものが放射ということになります。放射は黒体放射に比べて放射率分低くなっています。 そのため放射率で除算し、黒体換算の放射量を算出し、物質の温度を推定します。通常サーモグラフィでは上記の計算を放射率と周囲温度を設定するだけで自動で行います。
  • サーモグラフィの信号とドリフト
サーモグラフィはセンサが受光した赤外線を量子的あるいは熱的に変換し、電気信号とするものです。 対象が安定した黒体であるとして、対象の赤外線放射に対して安定した信号が得られるかというとそうではありません。 信号はふらつきます。そのふらつきをドリフトと言います。
  • ドリフト
 ドリフト(Drift)は漂流、漂う、無秩序に積もる、などの意ですが電気的には取得信号がゆらぐことを指し、 サーモグラフィではその得られた温度計測値が対象物の温度と関係なく変動することを意味します。 かつては自己発熱による温度計測値の上昇を指すことが多かったように思われます。
  • サーモグラフィのドリフトにはいくつかの要因があります。
 電源入力後のカメラ自己発熱により信号は揺らぎます。 これは冷却型では影響はほとんどありませんが、非冷却型ではローエンドからハイエンドまで影響することになります。 電源投入によりカメラ電子基板は発熱し、カメラの筐体温度は上昇します。 筐体からの赤外線放射が変化し、その放射は赤外線センサに降り注ぎます。これが信号ドリフトになります。 電源入力後バイアスのかかる赤外線センサも温度が変化します。 自己発熱と筐体温度変化によりセンサ温度が変わり、感度が変化します。これも信号ドリフトになります。 赤外線カメラレンズもまた温度変化します。 対象からの放射を赤外線センサ面に合焦させるのがレンズの役割ですが、レンズ自体も放射します。 レンズはカメラの自己発熱だけでなく、環境温度の変化の影響も受けやすく、レンズの放射の変動は影響は小さくありません。 また、直接的にドリフトを指しませんが、NETD(温度分解能)が高(=感度が低)ければ、NETDはS/N比であることから相対的にノイズが大きくなるため、 ドリフト幅が大きくなりやすいということになります。 このようにいくつもの要素がドリフトの要因となっており、温度計測に影響を与えます。 これは測定の再現性の問題につながり、測定目的に応じてハードウェア、ソフトウェア的な対策が必要となります。 サーモグラフィによってその性能、機能は異なるため、適切な対応のとれる機種の選択が必要となります。
  • 再現性
再現性とは、同じ温度のものを時間をおいて計測したときに、どれだけ同じ値が取得できるか、を指します。 常に同じ値が得られることを期待されますが、いくつかの要因である範囲での変動が生じます。
  • ドリフト
 カメラの自己発熱や環境温度変化により信号のふらつきが生じ、測定結果に影響を与えます。 >>ドリフトについて
  • 環境温度の変化
 サーモグラフィはプランク関数を利用した計測装置です。 背景放射は測定値のノイズオフセット分として差し引いて計算します。 環境温度が変動することで、差し引くべき背景放射が変動し、計算結果が変動します。
  • NUC
 NUCは測定面の不均一性を補正すると同時に、元々測定値のドリフトをオフセットキャリブレーションするために設けられているサーモグラフィ独特の機構・機能です。 NUCは内部のNUCシャッター近くに温度計を付加することで、ドリフトを差し引きます。 しかし、自己発熱や環境温度の変化でシャッターの実温度と測定結果に差が生じると、却って変動要素となることがあります。 使っていたら、突然1℃ぐらい温度が変わっていた、という経験はないでしょうか。
  • グレードと対策
 再現性はサーモグラフィのグレード、設計によって異なります。 冷却型はセンサをデュワ内に液体窒素温度で安定させるため高い安定性が得られますが、ドリフト0というわけではありません。 非冷却型は室温付近で動作させる作動原理から、再現性は比較的低くなります。 温度変化が小さい対象を測定する場合、再現性は精度以上に重要で、その対策が必要となります。 ハードウェア的に性能が高いものを選択する方法とソフトウェア的に対策を取る方法があり、その計測目的、ゴールと予算に応じて検討することになります。
  • NETDとは
サーモグラフィの信号とノイズを温度で表した物で、どれだけ細かい温度差を見分けられるかの指標です。 Noise Equivalent Temperature Differenceの略で雑音等価温度差とも言います。温度分解能や感度などメーカーによって表記が異なります。
  • 定義
 その検知素子がどれだけ細かい温度差を見分けることができるかを表し、 評価は2点温度を測定しその温度差を信号と雑音の比で割った値を雑音に等しい温度としています。 つまりちょうど温度差として見えなくなる値を示しており、そのため温度分解能や感度として説明されています。 通常~℃以下という表記で、偏差を加味した表記になっています。 世界中で使用される規格であり、国内では防衛省規格として使用されています。
  • パラメータ
 これは検出器の感度特性、露光時間や光学系(カメラレンズ、センサパッケージ・デュワの開口)、信号取得のタイミングなどが影響します。 センサ感度が悪くとも開口を大きくすればNETDは良くなりますし、その逆も言えます。そのためNETDは装置としての感度と言えます。 そのためセンサのNETDとカメラのNETDはその検討するパラメータが異なります。 非冷却型では通常変更できるものはレンズだけで、レンズのF/#によるNETDの変化に留意が必要なだけですが、 冷却型は露光時間設定、センサF/#、レンズF/#など留意する点が多くなるので注意が必要です。
  • 計測・用途
 NETDはノイズになる温度差であり、S/Nそのものであるため、計測値と考え方が異なります。 計測では再現性やドリフトといった要素があり、計測上はNETDに対して十分大きい温度差が必要です。 市販ではNETDが0.5℃のものから1桁、2桁よいものまで様々にあります。 配電盤の検査では目標とする温度差が大きいためNETDは重要ではありませんが、 温度変化が小さいものほど高感度の非冷却型、それでも不足であれば冷却型を選択することになります。 細かい温度差を出すためには再現性の補正と統計処理が必要になる場合があります。 その定義上NETDより細かい計測はできません。
  • 赤外線の検知方式の1つで、冷却しないと感度の得られないセンサ(カメラ)を指します。
赤外線の検知方法は主に二種類に分けられます。量子型と熱型です。 量子型とは赤外線を光子としてとらえる方式で一般的な可視のデジカメと似ています。 検知素子に化合物半導体を使用しており、InSbやMCT、QWIPなど波長特性のあるセンサを使います。 また熱励起により室温では使用できないため、通常-196℃に冷却します。そのため冷却型とも言います。
  • 冷却方式
 冷却型のイメージセンサはかつては液体窒素で冷却していましたが、 現在では連続的な断熱膨張による冷却を繰り返すスターリングサイクルを利用したスターリングクーラーを使用しています。 そのため電源を入れれば、一定時間(通常7~10分)で液体窒素温度までセンサは冷却され、 故障がない限りは連続的に使用が可能になり、冷却の手間は大幅に省かれました。 現在平均故障時間はそのグレードによって5000から20000時間となっています。
  • 冷却構造
 センサはデュワと呼ばれる窓付きのケースに収納されており、コールドフィンガを伝ってセンサ背面から冷却されます。 デュワ内にはコールドシールドと呼ばれる迷光防止用の遮蔽があり、シールドでF#が規定されます。 冷却カメラ用のレンズはこのデュワ、コールドシールドを考慮したレンズが必要で、またF#を合わせる必要があります。
  • 特徴
  近年多数を占める非冷却型と異なり短時間の露光、高いフレームレート、高感度、高い再現性を得ることができ、波長も近赤外から遠赤外まで選択できます。 一般に計測目的ならInSb、高速応答ならMCTを選択しますが、近年その差は縮まっています。早いものではマイクロ秒以下での露光が可能で、通常16ミリ秒、高速タイプでも4ミリ秒の非冷却型とは全く違う計測が可能です。よってフレームレートも非常に高く、フルフレームで数百フレーム、ウィンドウイングでは数千、万フレームののものもあります。
  • 感度
  非常に高感度であるためバンドパスをかけてガスを可視化することも出来ます。 非冷却でバンドパスをかけると感度が不足し、高濃度のガスしか見えない,ということが起きますが、 冷却型では狭いバンドでも十分な感度を得ることが出来ます。
  • 信号安定性・再現性
 極低温に安定させ、シールドで守られているため非常に高い信号安定性が得られます。 非冷却ではその動作原理、機構上、ある程度の信号ドリフトが避けられませんが、冷却型では再現性良く信号取得が可能です。
  • 波長特性
  非冷却型と異なり、動作原理上波長特性があります。 センサの感度波長はそのバンドギャップに依存します。主に3~5μmの中赤外域ですが、 MCTやQWIP、QDIPのように近、中、遠赤外域のいずれかに感度を持たせたものや、 SuperLatticeのように同じ帯域で感度波長が違うものもあります。また2波長などのマルチバンドセンサも存在します。 主に防衛用途で複数の波長検出により、物体の識別や特性解析に使われます。
  • デメリット
  メリットがかなり大きな冷却型ですが、デメリットもあります。 クーラー搭載ゆえに大型で重く、ハンディ型には向きません。 機構の多さ、製造難易度、数量などの理由から、非冷却型に比べ大変高価です。 そのため市場では非冷却型が多数を占めます。 主に研究開発用途や半導体解析、ガラス越しの温度計測、宇宙防衛など特殊用途に限られているのが現状ですが、 3桁以上違うその応答性、感度から冷却型でないと実現できない計測があるのもまた事実です。

サーモグラフィ計測の注意点

  • サーモグラフィ測定上の注意点
赤外線はその温度と放射率、波長に応じて放射されます。 波長はサーモグラフィの光学系、センサ波長感度で規定されるので較正されたサーモグラフィであれば考慮する必要はありません。 測定上重要なのは測定対象の放射率を知ることです。同じ温度でも放射率が違えば放射される赤外線の量は違います。 またあらゆる物質は入射してくる電磁波(赤外線)に対し吸収、反射、透過のいずれかの作用をします。どのように作用するかは物質の特性によります。 温度平衡にあれば、吸収された赤外線は放射されますから、放射率に応じた放射がなされます。 問題は反射あるいは透過で、これらは測定対象の温度とは無関係です。 サーモグラフィは温度測定に関係する放射と無関係の反射あるいは透過赤外線を見分けることはできないので、すべて含んだ赤外線を測定することになり、これが誤差要因になります。 反射あるいは透過は周囲からの赤外線であり、反射率(あるいは透過率)は1-放射率で求まりますので、周囲の温度と測定対象の放射率が分かれば計算は可能です。 その他、湿度、距離、NUC、カメラ周囲温度など様々な要因が測定に影響します。 ・>>放射率とは ・>>反射・透過・吸収・放射  
  • サーモグラフィとは
サーモグラフィとは物体表面の温度を画像化する装置のことを意味します。 ほとんど多くの場合、非接触式と呼ばれる測定対象物に触れることなく温度測定を行えるカメラを指します。 測定対象物に貼り付けてその温度分布を色むらとして見る装置をサーモグラフィと呼ぶこともあります。 しかし一般的にはサーモグラフィは測定対象物からの赤外線放射を画像化し温度換算して表示するカメラの意で使われています。サーモビジョン、サーモビューワということもあります。 また温度測定目的ではなく、夜間視認目的のものはナイトビジョン、防衛用でサーマル、TWS、(広義の)暗視装置などと称しています。 ただし、必ずこういう表現をしなければならない、と決まっているわけではありません。  
  • 赤外線とは
あらゆるものが電磁波を放射しています。 電磁波とは分子の振動による電場と磁場が交互に生み出す波であり、可視光線も紫外線も赤外線も電磁波です。それぞれの違いはその波長です。 赤外線は200年前にW. Hershellがプリズムでの実験で発見したとされています。分光された光の赤色の外側に熱発生が認められ、時を経てその見えない光は赤外線と名付けられました。 上述の通り、電磁波の種類の違いは波長によって分けられます。 人間が視認できるのはおおよそ0.4~0.75umの間の波長で、0.75umより長く1mm以下を赤外線としています。 近年は新しい研究分野として30um(あるいは100um)以上をテラヘルツとすることが多くなりました。1mm以上を電波として扱っています。(電波法では3テラHz=100um以上が電波の定義) サーモグラフィは赤外線、特に中赤外線(3~5um)あるいは遠赤外線(8~14um)のいずれかを利用しています。 ・>>電磁波とは ・>>赤外線とは  
  • サーモグラフィの測定原理
あらゆるものが赤外線を放射しています。その放射強度はその温度と放射率、波長に依存します。 サーモグラフィはその放射輝度を測定することで、温度換算しています。 温度換算は黒体と呼ばれる理想的な赤外線放射体を模擬した黒体炉との比較により行われます。。 黒体と呼ばれる理想的な赤外線放射体であれば、ステファン・ボルツマンの法則を使うことで放射量と温度の関係が分かります。 しかし実際には大気による赤外光の減衰、レンズ・窓などの光学系による損失、センサ感度特性などにより計算通りには測定できないため、 黒体炉という黒体を模擬した赤外放射熱源との比較で温度測定を行います。この比較を「較正」や「キャリブレーション」などと言います。
  • メリット・デメリット
サーモグラフィのメリットは、たとえば熱電対と比べると ・数万~数十万点の温度を一度に測定できる。 ・触れることなく測定できる。 ・温度を画像で表示、記録することができる。 デメリットは、 ・測定基準が黒体(炉)であるため、測定対象の表面状態(放射率)に影響されやすい。 ・周囲環境条件の影響を受けやすい(温度ドリフト、反射の影響、湿度による減衰、など。特に非冷却カメラにて) ・比較的高価 などが挙げられます。 ・>>ドリフト ・>>再現性とは  
  • よく使われる用途
サーモグラフィの用途は多岐に渡ります。 歴史的に軍事目的(ウェポンサイト、FLIR、サベイランスなど)が主たる用途で温度測定よりも視認用でしたが、近年の価格低下、小型化により ・電気設備(配電盤、送電線)点検 ・建築診断(断熱欠損、コンクリート浮き検知、漏水診断など) ・太陽電池パネルの不良パネル確認 ・金属溶融温度など工業用プロセス温度管理 ・電子基板温度分布撮影 ・人体温度測定 などに使われています。 また、高感度高速タイプのものは ・ロックイン測定による太陽電池のシャント検知 ・高速回転中の回転体(タイヤ・ベアリング・モーターなど)温度測定 ・荷重試験による応力解析 などに使われており、 特殊なものでは ・二波長(デュアルバンド、デュアルカラー)カメラによる物体の識別 などにも使われています。 ・>>画像・事例集  
  • その技術
サーモグラフィは赤外線に感度を持つセンサを搭載したデジタルカメラです。 赤外線の検知方法は主に二種類に分けられます。量子型と熱型です。 量子型とは赤外線を光子としてとらえる方式で一般的な可視のデジカメと似ています。 検知素子に化合物半導体を使用しており、InSbやMCT、QWIPなど波長特性のあるセンサを使います。 また熱励起により室温では使用できないため、通常-196℃に冷却します。そのため冷却型とも言います。 特徴としては短時間の露光、高いフレームレート、高感度を得ることができ、波長も近赤外から遠赤外まで選択できます。 2波長などのマルチバンドセンサも存在します。 またクーラーで極低温に安定させているため、熱型に比べ大変安定しています。しかしクーラー搭載ゆえに大型で重く、クーラーのメンテナンスが必要で、熱型に比べ高価です。 熱型とは赤外線を熱線としてとらえる方式で、検知素子が赤外線を受光した際の温度上昇(あるいは低下)を電気的な変化に変えて信号としています。 温度変化を起電力に変えるSOIやサーモパイル型や極性変化を見る焦電型もありますが、温度変化を抵抗値変化としてみるボロメータ型が主流です。 酸化バナジウムとアモルファスシリコンの2種があります。変化をとらえるので室温動作し、クーラーを使用しないですむため非冷却型とも言います(動作安定のためにペルチエ素子を使っています)。 特徴としてはクーラー不要であるためメンテナンスが不要。小型で冷却型に比べ安価です。解像度も冷却型に追いつきつつあります。また広い範囲に感度波長をとれます。 デメリットは冷却型に比べ感度が低く、応答速度は熱型であるため遅く、3桁以上落ちます。 レンズは赤外域を透過する材料を使用し、Ge、Si、ZnS、ZnSe、カルコゲナイドガラスなどが使われますが最も多く使われるのはGe(ゲルマニウム)です。 ガラス(SiO2)は3um程で透過率が落ちていくのでサーモグラフィで通常使用する波長域では使用できません。 ・>>赤外線材料・材質  
  • 独特の性能表示
・NETD ・・・Noise Equivalent Temperature Differenceの略で雑音等価温度差です。 最小温度分解能、温度分解能、感度などメーカーによって表記が違います。 その検知素子がどれだけ細かい温度差を見分けることができるかを表し、評価は2点温度を測定し信号と雑音の比で割った値を雑音に等しい温度としています。 ・測定精度 ・・・サーモグラフィの測定精度は黒体炉の表示温度に対する精度になります。そのため較正条件が重要になります。
  • サーモグラフィの長所
サーモグラフィは温度測定結果を画像で表示してくれる大変便利なものです。 一般的なもので数万点から数十万点の温度計測を行えますから、熱電対での直接計測とは比較にならないほどの多くの情報を提供してくれます。 また多くのサーモグラフィは黒体に比して±2℃あるいは2%程度の誤差で計測できます。これはCFDを使った熱流体シミュレーションに比べて高い精度で測定できる長所を持ちます。 つまりサーモグラフィは面で高い精度の温度測定が可能な技術であると言えます。  
  • サーモグラフィへの理解
しかし、メリットがあればデメリットもあります。 デメリットを認識し、指定の精度で測定するためには赤外線、赤外線と測定対象の関係、測定環境、障害物、場合によってはサーモグラフィの仕組みまで理解する必要があります。
  • 確認内容
以下は弊社でサーモグラフィのご相談を受けた場合の確認事項です。 ・目的(何を何のために) ・測定温度範囲 ・目標精度 ・感度(温度分解能) ・画像の細かさ(目的、対象物の大きさ、撮影範囲) ・サーモグラフィ設置条件(撮影距離、障害物、周囲の状況) ・さらに留意点があれば撮影内容について
  • 計測前に確認を
セルフチェックできる項目ですから、計測前、選定前に確認されることをお勧めしま
  • 目的を確認する理由
当たり前のようですが、目的の確認が第一の確認事項です。弊社にサーモグラフィのご相談を受けた際にも必ず伺います。 サーモグラフィ計測において目的=何を何のために測定するのか、を確認することは測定の可否、機種の選定を判断するための重要な情報になるからです。 つまり、場合によってはサーモグラフィが使えないということがあるということです。
  • サーモグラフィの性質と目的
たとえば投薬前後の体温変化をみるために衣服の上から体温を測定したい、とします。 しかしサーモグラフィは表面温度を測定するカメラです。一部の特殊な材質はサーモグラフィで使用する赤外線を透過しますが、多くの材質は透過せず、吸収か反射します。 ですから着衣したまま皮膚温を直接測定することはできません。測定できるのは衣服の表面温度です。 皮膚から熱が伝導した影響がその薄さに応じて衣服の表面温度に現れますが、直接測定することは出来ない、ということになります。
  • どういった結果が予測されるのか
ある刺激前後の皮膚温度の変化を見るという目的において、最終的な結果、得たい結果はどういった内容でしょうか。 手先の抹消温度が温熱により5℃変化するだろう、という内容であれば変化自体は多くのサーモグラフィで得られることが予想されます。 ノイズに同等となる温度差であるNETD(温度分解能)は低価格なものでも0.2℃程度あり、その10倍を見ても2℃差となります。 再現性や精度をどこまで求めるかによって変わりますが、変化自体をとらえることに問題がある可能性は低そうです。 しかし例えば、変化が1℃やそれ未満しか望めない場合や、0.数℃の変化を数値化したい、統計処理したいといった場合は、 NETD(温度分解能)や再現性が大きく影響します。こうした場合はサーモグラフィの性能やソフトウェアの補正機能、 処理機能が非常に重要になります。
  • サーモグラフィが適切か
目的次第ではサーモグラフィが不適切な場合があります。 サーモグラフィの性能判断や、適切なセットアップのために、目的を明確にすることが大切です。 目的別にどういった性能、機能を選択したら良いか、セットアップはどうすればよいか、どういった注意点があるのか、 コストと性能・機能の比較など、事前検証が重要です。
  • 人体用途における測定温度範囲
測定温度範囲は、サーモグラフィの性能の問題と用途に影響されますが、人体の場合はそれほど重要ではありません。
  • サーモグラフィにおける測定温度範囲
性能面ではサーモグラフィは一度に測定できる温度範囲が決まっています。 サーモグラフィが最大でどれだけの信号が得られるかが決まっているためです。そしてその測定温度範囲は各サーモグラフィメーカーが任意に選択して決めています。 その範囲をダイナミックレンジといい、温度範囲を割り当てる作業を較正といいます。
  • 20~40℃はカバーされている
人体の場合強制的に冷やすなどしない限り周囲の温度以下になることはありません。 そのためほとんどの場合20~40℃測定できれば十分です。どのメーカーのサーモグラフィでもこの温度範囲は測定できます。 むしろ重要なのは精度と周囲温度に対する再現性です。次項でこれについて述べていきます。
  • 目標精度と測定内容
測定内容によって目標精度は変わります。 冷え性を見たいのであれば、室温付近まで下がり、冷え性でなければ30℃を超えてきますから、それほど重要視されません。 抹消とそれ以外、あるいは左右差など分布として判断できれば十分なケースもあります。
  • 目標精度と測定内容2
被験者の温度変化を見たい場合には、精度とともに再現性が重要になります。 人体温度測定の場合、皮膚温もサーモグラフィのの測定値も周囲の温度の影響を受けます。 精度を問う場合は、入念なセットアップと基準の取り方が重要になります。
  • ±2℃の意味
難しいのは製品仕様に測定精度±2℃と書いてあるから、検討されている測定対象物を±2℃で測定できるとは限らない、ということです。 サーモグラフィの仕様精度はあくまで黒体炉比で、一般に恒温層という安定環境下で確認された精度です。 特に人体の場合皮膚温が室温に影響するので、撮影目的が何であるかを明確にし、目標精度を決める必要があります。 その目標精度によってサーモグラフィの選定、セットアップを検討する必要があります。
  • 再現性の重要性
サーモグラフィではしばしば、仕様としての精度以上に再現性の確保が重要になります。 サーモグラフィの仕様精度は上述のような条件があることに加え、技術的・原理的に計測信号のドリフトがつきまといます。 つまり測定値はある範囲のふらつきがあり、その範囲はサーモグラフィのグレード、設計によって異なります。 仕様精度と再現性は冷却型でない限りは切り離して考えるべきで、非冷却型サーモグラフィにおいてはその対策が必要となります。 ハードウェア的に性能が高いものを選択する方法とソフトウェア的に対策を取る方法があり、その計測目的、ゴールと予算に応じて検討することになります。
  • NETD(温度分解能、感度)
NETDや温度分解能、感度と言い、どれだけ細かい温度差を見分けることができるか、という指標になります。 ある温度差を見たときに得られる信号とノイズの比でその温度差を割ったものをNETDとしています。 つまりノイズになって埋もれてしまう温度差、見分けられるぎりぎりの温度差がNETD(Noise Equivalent Temperature Difference=雑音等価温度差)となります。
  • 温度の変化とNETD
温度変化を見たい場合には、その変化の大きさと計測したい細かさで必要なNETDが変わります。 温度変化が大きなケースが想定される場合、NETDは大きくとも十分温度差を取得することができます。 その変化を例えば0.1℃刻みで見たいとなれば、NETD0.1℃より小さなNETDが必要になります。
  • NETDの検討
NETDはどれだけの温度差を識別できるか、という指標です。 性能評価においてはフレーム間の信号処理なしでのカタログ値の比較検討が必要になります。
  • 空間分可能
画像の細かさとは具体的には画素数と撮影距離から割り出された1画素あたりの撮影範囲を指します。 これを空間分解能と言い、小さければ小さいほど細かい画像で温度測定できるとことになり、測定精度も向上するのですが、その分撮影範囲が狭くなります。
  • 空間分解能が決まる要素
空間分解能は画素数、レンズ、撮影距離で決まり、前2者はコストに大きく影響します。 撮影対象の大きさと撮影範囲を提示しサーモグラフィについて相談されることをお薦めします。
  • 手前味噌ながら、
弊社では様々なカタログレンズ、特注レンズの中からご提案できます。またコストに応じたシステム選択もできます。
  • 設置条件
 サーモグラフィの選定と等しく重要なのが、設置条件です。 撮影距離、障害物の有無、熱伝達の影響(風)、熱伝導の影響(被験者に触れているものの有無、体勢)、 周囲の熱源、時間帯など検討項目が多数あり、それぞれが測定結果に影響します。 また撮影場所の条件はあらかじめ決まっていることが多いので、その制限も考慮に入れる必要があります。 撮影しようとしたら距離がとれなかった、ということは起き得ます。  
  • 諸条件の考慮
 人体の温度測定では余りありませんが、窓越しに測定したい場合、特別な窓の設置が必要になります。 通常のガラス窓は赤外線を透過しないからです。こうした赤外線透過窓は高価で、事前に必要かの検討がなされなければなりません。 熱伝達で多いのは空調の風で、これは皮膚温を下げます(設定温度が低い場合)。ヒーターからの放射も皮膚温に影響します。 時間帯や心理的要素、室温の変化による血流の変化などの事前の考慮、そして計測後の考察が必要になります。  
  • 総合的に検討
 これらの影響を無視できる条件、あるいは影響してよい条件が何かを決めて、目的を満たす設置を行います。  
  • 共同実験サービス
 これまで述べてきたような知識や経験を既にお持ちの方はレンタルが最も安価な方法と言えます。 160×120画素のカメラで2.5万円程度から、320×240画素の高感度タイプで5万円程度の費用になります。 もしもサーモグラフィ計測への不安がおありなら、上記レンタル費用に追加の費用がかかりますが、費用対効果の高い測定が行えます。
  • 黒体炉を視野内に入れた測定
サーモグラフィは事前に黒体炉との比較情報を入れること(較正)で温度未知の物体の温度を推測する計測器です。 しかし較正環境と異なる環境で計測するため、環境温度、カメラ自体の温度、測定距離、放射率の違いなどの影響で計測値がずれることがあります。
  • オフセット
 その問題を解消するため黒体炉など基準となる熱源を計測しながら温度未知の被写体を計測する手法(オフセット)があります。 この手法のメリットは異なる環境、異なる時間に計測した結果の再現性を黒体炉に近づけることができます。 また被写体との測定距離が黒体炉など基準との測定距離と同じで、放射率も同等であれば、黒体炉の設定温度では測定精度を黒体炉に近づけることができます。 >>再現性について
  • 測定精度
 黒体炉を用いても、黒体炉との距離が異なれば測定精度は改善できません。 また黒体炉の設定温度と異なる温度に関して精度が改善するかはサーモグラフィ内の処理によります。 サーモグラフィのセンサ感度は線形ではないので、特別な処理がなく事前の較正が正しくなければ、誤差はむしろ大きくなります。
  • 面内均一性
 サーモグラフィは温度センサ(画素)が数万~数十万並んだ面センサであるため、各画素のばらつきが影響します。 黒体炉を用いた場合の再現性には影響しませんが、計測精度は各画素間のばらつき分だけ黒体炉に対してずれることになります。各画素間のばらつき具合を面内均一性と言い、いかに均一かが重要となります。
  • 黒体炉の精度
黒体炉は基準温度ですが、黒体炉も高精度の温度計で黒体面の温度を安定させているものなので、一定の誤差があります。 誤差は用いている温度計によりますが、±0.05度や0.1度、0.5度など様々にあり、対応する温度によっても異なります。
  • 黒体炉の誤差
黒体炉の誤差は2種類あり、精度と再現性になります。精度は黒体炉の温度を測る内部温度計とのずれで、再現性は黒体炉の温度調節自体の安定性をさします。
  • サーモグラフィと黒体炉の精度
サーモグラフィの温度精度は黒体炉を基準とするので、黒体炉の精度と再現性を超えたサーモグラフィの温度精度を実現することはできず、凡そ黒体炉の精度の数倍になると考えられます。

赤外線原理・技術

  • あらゆるものから電磁波が出ています。
電磁波とは電場と磁場が交互におりなす連続的な波で、光も、紫外線も、電波も、X線も、そして赤外線も電磁波です。 電子の動きが磁場を作り、磁場の変動が電場を作ります。物質を構成する原子・分子には電子が周回しており、振動、回転、電子の遷移によって電磁波が発生します。
  • 波長
 電磁波の違いは波長で決まります。人が見ることが出来る可視光は波長約0.4μmから0.75μmです。 波長0.4μm付近の光は紫色と感じ、波長0.7μm付近の光は赤色に感じます。光よりも波長が短くなれば紫外線となり、波長が長くなれば赤外線となります。
  • 電磁波の発生
 物質からどんな種類の電磁波がどれだけ放射されるかは、その物質の特性と温度で決まります。十分に熱いものからは、目に見える光を出しますし、温度が低ければより長い波長の電磁波が優勢になります。黒体と呼ばれる理想的放射体であれば、あらゆる波長の電磁波が放射されます。そして最も放射される波長はその温度で決まることになります。
  • 赤外線とは
赤外線は電磁波の一種で、波長約0.75μmから1mmまでの電磁波を指します。 人が生活する雰囲気温度約25℃付近の物質からよく放射される電磁波の波長は10μmに当たります。しばしば遠赤外線とよばれる電磁波です。ですから周囲では赤外線が飛び回っていることになります。 人が見ることが出来る可視光は波長約0.4μmから0.75μmです。赤外線はそれより長い波長の電磁波で、肉眼で感知することはありません。赤外線は主に人が熱として感じる領域で、熱線と呼ぶこともあります。
  • 赤外線の発見
 赤外線は200年前にW. Hershellがプリズムでの実験で発見したとされています。 分光された光の赤色の外側に熱発生が認められ、時を経てその見えない光は赤外線と名付けられました。
  • 赤外線の種類
 赤外線では近赤外、中赤外、遠赤外領域に分けることが多く、近赤外域もNIR(Near Infrared)とSWIR(Short Wave Infrared)に分け、 遠赤外域も30μmを超えサブミリ波の領域までを近年テラヘルツとして扱うこともあります。
  • 近・中・遠赤外線
 近赤外域は波長約0.75μmから2.5μm程度を指し、光として捉えることが多い範囲になります。NIR領域はおおよそ0.75μmから1μm強の光としての要素が強く、主に赤外CCDの感度領域に当てはまります。 SWIRは1μm弱から2.5μm程度の範囲でInGaAsセンサが該当します。光電子倍増管を使ったイメージインテンシファイアではその両方があります。 中赤外域は3μmから5μmの大気の窓に当たります。熱として捉える短波長赤外線であり、温度300から700℃前後に相当します。 InSbやMCT、PtSi、QWIP、QDIP、Lattice系といった化合物半導体が感度良く使える波長帯であり、長距離であっても感度良く捉えることの出来る赤外線です。 遠赤外域は8μmから14μmの大気の窓に当たり、熱とて捉える長波長赤外線です。室温付近で10μmの赤外線を効率よく放射するため、比較的低温に対応している赤外線と言えます。 MCTやQWIP、長波長に感度強化したボロメータ、サーモパイルなどが感度対応します。
  • 応用範囲
 光としての特性と熱としての特性両方を使用することが出来るため、温度計測、検知・識別、スペクトル分析など幅広い応用範囲があります。
あらゆるものから電磁波は出ています。
  • 波長
 電磁波の違いは波長で決まります。人が見ることが出来る可視光は波長約0.4μmから0.75μmです。 波長0.4μm付近の光は紫色と感じ、波長0.7μm付近の光は赤色に感じます。光よりも波長が短くなれば紫外線となり、波長が長くなれば赤外線となります。
  • 電磁波の発生
 物質からどんな種類の電磁波がどれだけ放射されるかは、その物質の特性と温度で決まります。十分に熱いものからは、目に見える光を出しますし、温度が低ければより長い波長の電磁波が優勢になります。黒体と呼ばれる理想的放射体であれば、あらゆる波長の電磁波が放射されます。そして最も放射される波長はその温度で決まることになります。

赤外線カメラレンズ・光学材料

  • サーモグラフィでは通常の石英硝子レンズは使用できません。
赤外線カメラレンズでは、近赤外、中赤外、遠赤外域のどこを選ぶのか、あるいは複数選ぶのかで選択素材が変わります。 レンズは赤外域を透過する材料を使用し、Ge、Si、ZnS、ZnSe、カルコゲナイドガラスなどが使われます。最も多く使われるのはGe(ゲルマニウム)です。 ゲルマニウムは14μm程度まで透過特性があり、遠赤外域ではほぼこの素材が選択されます。シリコンやZeS、ZeSeなどは波長帯によって使い分けます。 近赤外域を上限とした場合であればガラス(SiO2)レンズがよい選択肢となります。しかし3um程で透過率が落ちていくのでサーモグラフィで通常使用する波長域では使用できません。
  • 迷光
 赤外線カメラレンズが通常のレンズと違うところはその透過波長以外に迷光の影響の大きさがあります。 赤外線カメラレンズにおいて迷光とは光の要素と熱の要素があります。 光としての要素は可視光レンズと同じで、結像点以外からの入射が測定に影響することです。 可視光レンズでは余計な光の入射を防げば良いのですが、サーモグラフィの場合、レンズ筐体自体の熱放射もあります。 寸法・重量、コストの勘案とF/#の選択で最適な設計を選ぶ必要があります。
  • その他の要素
 その他の要素として ・焦点距離とセンサから視野角の決定、 ・MTFと歪み、 ・環境温度の影響による焦点ずれ、 ・用途に応じた振動・衝撃 など考慮する項目は多岐にわたるため、やや複雑に感じるかもしれません。 用途と必要な性能・仕様に応じて選択、決定していくことになります。
  • 焦点距離とは
焦点距離fとは、幾何光学上、光軸上の平行光が屈折したところ(レンズ主点)から光軸上に集まる点(焦点)までの距離のことで、 視野・明るさ・大きさに影響するパラメータです。
  • 関係性
 使うセンサが同じであれば、焦点距離によって(瞬時)視野が決まることになり、 開口が同じであれば、焦点距離によって、レンズの明るさ(Fナンバー)が決まります。 Fナンバーが同じであれば、通常焦点距離によってレンズの大きさが変わっていくこととなります。 例えば、センサが同じで焦点距離が長くなれば視野は狭くなります。 開口が同じで、焦点距離が長くなれば、Fナンバーは大きくなります。つまり暗くなります。 Fナンバーが同じであれば、焦点距離が長くなれば、機構は大きくならざるを得ません。
  • レンズの種類
 またレンズの種類を見るにも焦点距離は参考になります。 可視光のカメラでは18-55mmというように幅を持って記載があるレンズがありますが、これはこの範囲で焦点距離が変わるレンズ、すなわちズームレンズということです。 赤外線カメラレンズではズームレンズは極めてコスト高になるため単焦点レンズが多く、必要に応じて視野切替えレンズが使われています。 9mmレンズや100mmレンズというのは単焦点レンズですし、70/140/210mmレンズであれば、それは三視野切替えレンズということになります。
  • 焦点距離と視野
  サーモグラフィの世界では、センサの大きさによりますが、通常10mmを切る焦点距離のレンズは広角レンズの範疇であり、18や25mmレンズが標準的なレンズと言えます。 50mmを超えるとやや長距離で、100mmを超えると数100m単位、200mm以上から1km程度を見ることになります。 これは、前述の通りですが、センサ次第です。同じピッチで320x256画素と640x512画素では同じ視野を見るのに倍の焦点距離の違いが必要となります。
  • レンズの検討において
  通常測定対象を決めてサーモグラフィを検討するため、撮影距離から計算して焦点を決定することになります。 レンズ選択の上で必須のパラメータとなります。
  • フランジバック
レンズのカメラに対する取付面(フランジ)から合焦面(センサ)までの距離です。
  • BWD
 レンズの最後部からセンサまでの最小距離です。バックフォーカスとほぼ同意です。 焦点調整のためにレンズは前後に繰り出されます。 レンズピースを保持している部分とフランジ面を持つ筐体そのものが同じであれば、フランジ面とBWDは同じですが、 スムーズな繰り出しのために別々にしている場合があります。 そうした機構ではレンズ最後部はフランジ面より合焦面側(センサ側)に突き出す場合があり、カメラ取付上考慮する必要があります。
  • 赤外線材料・材質
サーマルイメージングで使用する赤外線材料では石英ガラスを使用することはほとんどありません。 3μm強で透過しなくなってしまうためです。材質として適切なものを選択する必要があります。
  • 屈折系
 サーマルイメージングで最も多く使われる材料はゲルマニウムです。結晶で、12μmまで半分近い透過率を持ち、 残りの多くも反射であるため、両面ARコーティングをかけることで高い透過率を持つことができる材質です。 肉眼で見て分かるように、可視域に対して不透過です。 他の材料に比べ赤外域で屈折率が非常に高く、加工性もよい。 希少材料であるため比較的高価で、マーケットの影響を受けやすく、センサに次いでサーモグラフィにおいてコスト高の原因となっています。 中赤外ではシリコンもよく使われ比較的高い透過率を持ちます。 強度が高く最外面としての使用に耐えますが、加工性は落ちます。両面ARコーティングをかけることで高い透過率を持つことができる材質です。 その他用途に応じて使われるのがZnS、ZnSeです。ARコーティングをかけて使用し、広い波長帯で使われます。 結晶系と異なり大量生産向きとみられるのがカルコゲナイドガラスです。ガラスなのでモールド生産に適しています。いくつかの種類があります。
  • 反射系
 代表的なのがアルミニウムですが、より高い反射率を求めて金を使う場合もあります。 望遠鏡やコリメータなど超長距離を実現するための材質です。

疫学・生物統計学・スクリーニング

  • 感度 Sensitivity
検査の妥当性を測る指標。 検出したい対象(疾病ありなど)群の中で正しく陽性と判定する割合。
  • 感度とサーモグラフィ
被験者の温度変化を見たい場合には、精度とともに再現性が重要になります。 サーモグラフィの性能や仕様では感度を熱の検出感度として温度分解能や波長感度として扱うことが多いのでが、 疫学的な感度はそれとは異なり割合を指します。 サーモグラフィでは例えば温度でカットオフ値を決めた場合、疾病あり群の中でカットオフ以上とされた群の割合となります。 性能面ではドリフト、再現性が、運用面ではカットオフの設定、測定環境、測定距離がサーモグラフィでは問題となる。
  • 特異度
感度と同じく検査の妥当性を測る指標で、感度と表裏一体です。 検出除外したい対象(疾病なしなど)群の中で正しく陰性と判定する割合。
  • 特異度とサーモグラフィ
サーモグラフィでは例えば温度でカットオフ値を決めた場合、疾病なし群の中でカットオフ以下とされた群の割合となる。 感度と同じく性能面ではドリフト、再現性が、運用面ではカットオフの設定、測定環境、測定距離が問題となる。
  • 偽陽性(率) False Positive
スクリーニング検査の誤りの指標。 陽性反応が出た中で、生検など精密検査の結果陰性(疾病なしなど)となった結果、または割合。誤って陽性と判定する割合。偽陽性率と表記されるが割合を指す。 1-特異度とは異なる。偽陽性は検査中の有病率に左右されるため、有病率が低ければ偽陽性率は高くなりやすい。 陽性的中率(正しく陽性とする割合)と偽陽性は正解か誤りかの違いで同じ内容を指している。 スクリーニング検査において偽陽性は課題となっており、陽性結果=精密検査となることが多く、侵襲性のある生検や陽性であったという心理的負担を健常であった患者に結果として与えることになってしまう。 画像診断、画像スクリーニングでは偽陽性の低減が重要な課題となっている。
  • 偽陰性(率) False Negative
スクリーニング検査の誤りの指標。 陰性反応が出た中で、別の検査などの結果陽性であったことが判明した(疾病ありなど)割合。誤って陰性と判定する割合。 1-感度とは異なる。検査中の有病率に左右される。
  • 発熱者スクリーニング
発熱者をスクリーニングする目的でサーモグラフィが利用されています。 顔面の皮膚温度から発熱の可能性のある人をスクリーニングするというものです。
  • 検温、体温、皮膚温
多くの報道でサーモグラフィ等放射温度計の画像・映像と共に「体温測定」を行っている旨伝えられます。 しかしサーモグラフィが計測できるのは皮膚温度で、体温計で測るような「体温」は計測できません。
  • 部位と皮膚温度
顔面には比較的安定して計測できる部位と変動しやすい抹消部位があります。体温と相関づけたいのであれば、撮影部位に注意が必要です。 皮膚温度は体温に比較して低いため、リスクが高いとされる体温に対し皮膚温度を何℃を閾値にするか運用上注意する必要があります。

AI(機械学習・特徴量抽出

  • 決定木 Decision Tree
条件に対してYesかNoで回答し、最終的にクラス分けを行うアルゴリズム。 基本ブーリアン関数で表現する。 教師あり学習を用いた機械学習で、仲間に回帰木がある。 構造は同じだが、最後に回帰結果:数値を得るのが目的。回帰木も合わせて決定木という事もあるが、使い分けされることが多い。
  • 決定木と学習
決定木はID3、C4.5などその学習方法によって異なる。1979年、Quinlanによって提唱された。 Concept Learning System(CLS)の1つ。 パターンに基づく特徴量のみで分類する。 知識ベースシステム、エキスパートシステムのニーズに対応する一連のアルゴリズム開発の中で生まれた Donald Michieのa challenging induction taskに対応するためのプログラムで、C4.5、C5へと続く。 教師ありなので正解ラベルをもとにパラメータの変更を行う。 決定木にとってのパラメータとは条件分岐の順序と不要な条件の削減(次元削減=枝切り)である。 条件分岐の順序と削減のために統計計算を用いるが、ID3ではエントロピー(情報量)の算出によって構造を決める。
  • 決定木と画像
決定木でそのまま画像を分類することはできないので、通常特徴量抽出を行い、その変数を決定木にFeedさせる。 独自に独立変数を用いて分類することもあるが成績が安定しない傾向がある。 画像分類において木構造のを用いる場合、決定木のバギングであるランダムフォレストを用いることが多い。