サーモグラフィはセンサが受光した赤外線を量子的あるいは熱的に変換し、電気信号とするものです。
対象が安定した黒体であるとして、対象の赤外線放射に対して安定した信号が得られるかというとそうではありません。
信号はふらつきます。そのふらつきをドリフトと言います。
ドリフト(Drift)は漂流、漂う、無秩序に積もる、などの意ですが電気的には取得信号がゆらぐことを指し、
サーモグラフィではその得られた温度計測値が対象物の温度と関係なく変動することを意味します。
かつては自己発熱による温度計測値の上昇を指すことが多かったように思われます。
- サーモグラフィのドリフトにはいくつかの要因があります。
電源入力後のカメラ自己発熱により信号は揺らぎます。
これは冷却型では影響はほとんどありませんが、非冷却型ではローエンドからハイエンドまで影響することになります。
電源投入によりカメラ電子基板は発熱し、カメラの筐体温度は上昇します。
筐体からの赤外線放射が変化し、その放射は赤外線センサに降り注ぎます。これが信号ドリフトになります。
電源入力後バイアスのかかる赤外線センサも温度が変化します。
自己発熱と筐体温度変化によりセンサ温度が変わり、感度が変化します。これも信号ドリフトになります。
赤外線カメラレンズもまた温度変化します。
対象からの放射を赤外線センサ面に合焦させるのがレンズの役割ですが、レンズ自体も放射します。
レンズはカメラの自己発熱だけでなく、環境温度の変化の影響も受けやすく、レンズの放射の変動は影響は小さくありません。
また、直接的にドリフトを指しませんが、NETD(温度分解能)が高(=感度が低)ければ、NETDはS/N比であることから相対的にノイズが大きくなるため、
ドリフト幅が大きくなりやすいということになります。
このようにいくつもの要素がドリフトの要因となっており、温度計測に影響を与えます。
これは測定の再現性の問題につながり、測定目的に応じてハードウェア、ソフトウェア的な対策が必要となります。
サーモグラフィによってその性能、機能は異なるため、適切な対応のとれる機種の選択が必要となります。